肩こり・首こり
どのような疾患?
肩や首の痛みは、多くの人が悩まされている世界的な健康問題です(1)。2000年代に入り、パソコン・携帯電話・スマホの利用者が増え、以前と比べ肩や首に負担がかかるようになったため、肩や首の長引く痛みで悩む人が増えてきました(2)。2019年:厚生労働省-国民生活基礎調査によると、有訴者率(=病気やケガで自覚症状のある者の割合)によると、肩こりは女性1位、男性2位となっています(3)。
肩こりや首こりは、僧帽筋という背中の筋肉の上部(よく肩もみをする部位)に痛み・重さ・硬さなどの症状が出ます。外傷(交通事故など)、慢性的な首・肩への負荷(パソコン業務など)、頸椎の変形、更年期障害など様々な要因が考えられますが、長時間の反復作業により、肩や首に緊張・負荷がかかる方に起こりやすいとされています(4)。
症状
僧帽筋上部(首の後ろや肩甲骨周囲)に6か月以上続く痛み、重さ、硬さ、つっぱり感、違和感(肩を動かす時にゴリゴリ音がする)などを感じることがあります。また、これらの症状に加え、頭痛、吐き気、手のしびれなどを伴うことがあります。頭痛、吐き気、しびれなどは他の疾患で見られることもありますが、肩こり・首こりの症状に併せて増悪する場合は、肩こり・首こりが原因の可能性があります(5,6)。
一方、五十肩(肩関節周囲炎)と異なり、両肩の可動域制限はほとんど見られません。
検査
必要に応じてX線(レントゲン)検査やMRI検査を行いますが、現状、肩こりや首こりを客観的に評価できる検査に乏しく、問診や診察から診断に至るケースも少なくありません。
治療
一般的な治療法は安静、運動、鎮痛薬、理学療法、ハリ治療などの組み合わせとされていますが(7)、これらの治療を続けているにも関わらず、症状がなかなか改善しない方も多数いらっしゃいます。
最近では肩こりや首こりに異常な新生血管(=モヤモヤ血管)が見られることが分かってきました(8)。当院では肩こり・首こりに生じたモヤモヤ血管を治療対象とした血管内カテーテル治療を行っています。肩こり・首こりによる長引く痛みでお悩みの患者さんは、専門の医療機関を受診されることをお勧めします。
[参考文献]
(1) Lancet. 2007;369:1815–22.
(2) Appl Ergon. 2018;68:160–8.
(3) 厚生労働省ホームページhttps://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21kekka.html
(4) Musculoskelet Sci Prac. 2017;29:43–51.
(5) Eur J Pain. 2007;11:475–82.
(6) Neurology. 2002;58(9 Suppl6):S15–20.
(7) Spine (Phila Pa 1976). 2000;25:1021–7.
(8) Cardiovasc Intervent Radiol (2021) 44:102–109.
当院での経験症例① 40代女性
事務職でデスクワークの多い方です。約20年前、交通事故によるむち打ちや育児の負担をきっかけに背中に痛みや重だるさを感じるようになりました。約10年前から症状が悪化し、頭痛も生じるようになりました。鎮痛薬内服、湿布、ハリ治療、整体・マッサージ、ボトックス注射など様々な治療を行ってきましたが、十分な効果が得られていません。症状を軽減するために不安を抑える薬も内服していました。
診察上、両側とも僧帽筋上部に一致する圧痛が見られ、カテーテル治療を行いました。
治療後、1~3か月かけて肩や首の痛みが徐々に改善し、併せて頭痛も軽減しました。パソコン業務による負担が大きいため、仕事の忙しい時期に痛みが出ることはありますが、鎮痛薬内服や湿布を使う頻度が以前よりも少なくなりました。マッサージへ通う頻度も減り、日常生活での負担が楽になっています。
当院での経験症例② 60代男性
約10年前から左首筋が痛むようになりました。夜間痛が出ることもあり、枕の高さを調整しながら寝ていました。その後、左肘の痛みや左手指先のしびれも見られるようになり、MRI検査を行うと頚椎症性神経根症(=頸椎の骨が変形し、神経の通り道が狭くなる疾患)を指摘されました。注射、鎮痛薬内服、ハリ治療、マッサージなど様々な治療を行いましたが症状の改善が見られず、カテーテル治療を行いました。
この方は非常に早い段階で効果が見られました。治療後10日経過した頃、左首~肩の痛みはなくなりました。2か月経過した頃、左肘の痛みも消失しました。3か月経過した頃、左手指先のしびれも徐々に改善が見られました。カテーテル治療後に痛みが残っている場合、注射治療を併せて行うことがあります。しかし、この方はカテーテル治療のみで無事卒業することができ大変満足されています。
当院での経験症例③ 50代男性
30代の頃に交通事故でむち打ち(頸椎捻挫)になり、両首の後ろや肩甲骨の上に凝っているような感覚が残りました。その後、約20年間、常に痛み、硬さ、張っている感覚が続きました。特に右首の後ろに何か硬い物を触れる感覚があり、鍼治療やマッサージなど続けていましたが、症状はなかなか改善されず当院を受診されました。
診察上、僧帽筋上部に一致する圧痛が見られ、カテーテル治療を行いました。
右後頚部の痛みの部位(=硬い物が触れる部位)に骨棘が見られました。患者さんは長引く痛みの原因が明らかになったと喜ばれていました。1か月後、肩甲骨周囲のコリや張りはほとんどなくなりました。2か月後、筋トレを少しずつ再開しましたが、以前のような痛みは出ません。3か月後、首の後ろに若干違和感はあるものの、日常生活で以前のような負担を感じることがなくなったので、無事卒業されました。交通事故などの外傷をきっかけとした長引く首の痛みに対しても効果が期待できます。
当院での経験症例④ 70代男性
約5年前から首の痛みに悩まされています。首を動かせる範囲が狭い感覚があり、左右を向くときに激痛が出ることもありました。痛みや重だるい感覚があり、趣味のゴルフ中に症状が悪化する状態でした。約20年前に心房細動に対するカテーテル治療を受けたことがあり、ワーファリン(抗凝固剤=血液サラサラにするお薬)を常用されています。
治療前後でワーファリン内服を中止することもなく、無事治療を終えました。
治療後すぐに軽くなった感覚がありました。1か月後、以前感じたような激痛はなくなり、車運転中の左右確認で痛みが出なくなりました。ゴルフ中の負担も軽くなっていました。2か月後にはほとんど症状なくなったので、痛みの部位に1度も注射することなく卒業となりました。当院では非常に細いカテーテルを使っているので、抗凝固薬の使用中でも問題なく治療を行うことができます。